夢を落とした話 後編

それから、隔週の水曜日の朝は警察からの電話が目覚まし時計代わりとなった。警察官にも顔を覚えられてしまい、そして、不思議なことに毎回拾得者は二回目の時と同じの女性だった。駅前のコンビニのコピー機の横、駅構内の自動販売機、電車の網棚、バス停留所など。彼女は見たことあるケースであったので中身を確認し、私のであると知りわざわざ警察署に毎回届けてくれた。その度に夢の一割をお礼として話した。

「カラカラと音がしたので今回は草臥れているのではないですか?」と何回かは言われた。だが、その度蓋を開けて確認してみたが、夢はすっぽりと調度良く収まっていた。

もう、合計で七、八割程は話したのだろうか。そんな折、彼女がカラカラと音がしないことを不思議そうに考えている時と同じ顔をしながら

「本当にそれ、貴方の夢なのですか?」

と言ってきた。

「何を言っているのですか。これは間違いなく私のものですよ。ほら、写真も違いないでしょう?」

「確かにそうなのですが。初めは、貴方自身の幸せな将来への夢なのだと思っていたのです。ですが、だんだんと聞くたびにその過程や末路はまるで、誰かの後追いのようで、何かはじめに聞いた印象とは異なってきて、それに凄く、違和感を覚えて。」

私にはだんだんとその不思議そうな顔が、哀れみの顔に見えた。

「だから、なんだというのです?誰かに敬意を持って、それを志して生きることがいけないと言うのですか?」

 私は声を少し荒げていた。彼女は「ごめんなさい。」と言ってそれ以降黙ってしまった。私もなんでこんな気持ちに成っているのかわからなくなり、次第にそれは自己嫌悪へと変わり、腹の中に一滴の雫が落ちそれがじんわりと広がり染みていく感覚に陥った後、冷静さを取り戻し、彼女に謝った。

 最後には、免許は持っているが車は持っておらず電車通勤であることや、火曜日の夜は遅番で終電ギリギリに帰ることが多いなどと、彼女に関しての他愛のない話をして別れた。徒歩だった彼女を駅の改札をくぐりホームへと続く階段をのぼるのを見届けて、別れた。その日の帰り道、鞄の中でカラカラと音がしていた気がした。

それから二週間後の火曜日の帰り道。また、どこかに落として明日の朝電話がかかってくるのでは無いかと思い、改札を出た所で鞄の中を確認した。そこにケースはあった。しかし、蓋を開けるとケースが大きすぎるくらいの飴玉サイズになっていた。そこで私は、駅前の大型ショッピングモールの前にある広場のベンチに夢の入ったケースを置くことにした。

家に帰り、押し入れを整理した。各教育機関で貰った卒業文集や、昔書いていた日記、メッセージの入った色紙や色々な手紙。色々と夢を見てきたのだろう。将来を描いてきたのだろう。その度に夢を書き換えてきたのだろう。いつから、夢を書き換えなくなったのだろう。だから、落としてしまった。のだろうか。

明日の朝電話がかかってくる。はずだ。