ピアノ

貴方のしなやかなピアノを

鳴らす指先とその音色が蘇る

幼い(いとけない)記憶

たまに頬に触れたならば

私の琴線にまでも触れて

音も鳴りもしない

旋律を奏でたことでした

調子の外れてしまうあどけなさは

貴方のピッチには合うことは

ないままで

隠し切れないはずの浅はかな思いは

重さなどなく ましてや 浅いので

すぐに浮いて出てしまうから

鈍感な貴方の その指で その指先で

私の心はどこにあるのと

体中を探して欲しかったのに

二度ともう楽しめないのなら

回した指先とその鍵音を覚えてる

悪戯な気持ち

誰に聞かせたくないので

私の記憶に眠らせたくて

鍵を捨ててしまい

せめてもの独り占めなのです

リズムの取りづらい私の振れでは

貴方の線を揺らすことは

ないのにな

向き合うこともなく伸びもしない心に

距離などなく ましてや 形は

すぐに見失い惑うから

繊細な私の この意図と この携えは

貴方の心を壊さずにと

飾らず閉じ込めたつもりだったのに

鍵はもう捨ててしまった、と言ったけど

まだ残している オルゴールの中

私の心の鍵(キー)への鍵

音を必要としない容易い言葉に

本音などなく ましてや 鍵など

すぐに合わなくなるのだから

繊細なピアノの その音と その指先で

私の心はどこか遠くへ

彼方中を追いかけてしまったから

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遠い過去の夏の日のピアノ